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 私の両親は「良い人」だったのでしょう。この私を、死ぬときまで育ててくれて。当時、自分では制御できない膨大なフォトンによって周囲の物を歪めてしまっていた、この私を。このような力により友達もできず、外に出ることさえ満足にできなかったというのに、彼らはどこまでも優しかったのです。
 そして、その両親を殺したのは、紛れもなくーーーー私自身なのです。

 その日は、なんの変哲もない日でした。朝起きて、ご飯を食べて、本を読んで過ごす。本で知る世界に興味はあれど、この力を持っている以上外には出られない。誰かを傷つけてしまうのは、本意ではありませんでしたから。
 けれど、その最初の被害者は、他でもない私の両親でした。
 なにがきっかけだったのかは今ではもう分かりません。けれど私の力は、家もろとも両親をねじ曲げ、破壊しました。
 私は逃げ出しました。そうせざるを得なかったのです。人を傷付ける力を持ち、それで両親を殺したと知れれば、元いた街に私の居場所はありませんでした。逃げて逃げて、私は知らない場所でひとりになっていました。
 生活できるようにとお金を持ってはいましたが、所詮は子供のお小遣い。すぐに底をついて、私は途方に暮れました。頼れる人もなく、生きていく術もなく、この先どうすればいいのかと。私はなんということをしてしまったのだと。
 そうして空腹に耐えながらひとりでさまよっていた時、ある男性に声をかけられました。

「一緒に来れば、食べ物も寝る場所も与えてあげるよ。心配しなくていいんだよ」

赤い髪を背で縛ったその男性は、いかにも優しく、私に語りかけました。私も子供でしたから、その怪しさに気付かず、ああこれでやっと安心して眠れるのだと迷わずその手を取ったのです。
 そこでその男性に巡り合わなければ私は餓死していたでしょうから、命の恩人であることには変わりありません。けれど、仮にここで私が死んでいれば、助かる命もあったのだと思うと、やはり私たちは出会うべきではなかったのです。





 私が連れて行かれたのは、どことなく生活感に欠ける真っ白な建物でした。そのまま小さな部屋に通され待っているように言われたのですが、私は好奇心に負け、勝手に出歩くことにしました。これがきっと、運命の分岐点だったのでしょう。
 その施設の中で私が見たものは、10歳前後……そう、当時の私と然程変わらない年頃の子どもたちが並べられ、チューブに繋がれている光景だったのです。
 私が感じたのは、自分もこんなことをされるのかという恐怖ではありませんでした。いえ、もちろんそれも多少はあったのかもしれませんが、それよりやはり好奇心が上回ったのです。あれはなにをしているのだろう、なんのためにしているのだろう、と。そしてそういった辺り、私はきっと根本的な部分から、研究者なのでしょうね。

「ここにいたのか、勝手に出歩いてはダメだろう」

赤髪の男性は私を見つけると、慌てて抱きかかえその場を離れようとしました。

「ダメです」

「ああ、だから部屋に」

「違います。あのまま続けたら、彼らのほうが先に死んでしまいます」

そう言うと、男性はきょとんとして私を見つめました。それもそのはず、その時の彼らに異常は全く見られませんでした。しかし私は、彼らの微妙な痙攣などから、このままでは数日も保たないと断言したのです。あとに聞いた話によると、その2日後、子どもたちは次々と命を落としたようでした。
 それから、私は様々なテストを受けさせられました。そしてさらにその後、フォトンのこと、アークスのこと、そしてダーカーのこと。様々なことを教えられーーーー

 3年後、私は研究員として活動するまでになっていました。

命の先に act.1

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